商標「補正の効果」事件 最高裁判例

平成16(行ヒ)4 審決取消請求事件

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商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,分割出願がされ,もとの商標登録出願について指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはない。


1 原審が適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,平成12年2月9日,別紙記載アの商標(以下「本願商標」 という。)につき,商標法施行令(平成13年政令第265号による改正前のも の)別表第1の第35類,第37類,第38類及び第42類のそれぞれについて別 紙記載イの役務を指定役務として,商標登録出願(以下「本件出願」という。)を した(以下,本件出願の第35類の役務群を「甲役務群」,第37類の役務群を 「乙役務群」,第38類の役務群を「丙役務群」,第42類の役務群を「丁役務 群」という。)。

(2) 特許庁は,本件出願について,平成13年3月5日付けで,拒絶理由を通 知した。被上告人は,同年4月18日付け手続補正書によって,甲役務群を指定役 務から削除する補正をしたが,特許庁は,同年6月1日,拒絶査定をした。 被上告人は,同月27日,拒絶査定に対する審判の請求をしたところ,特許庁 は,平成15年1月21日,請求は成り立たないとの審決(以下「本件審決」とい う。)をした。その理由は,本願商標は,先願に係る他人の登録商標と類似してお り,指定役務も同一又は類似であるから,商標法4条1項11号に該当するという ものであった。

(3) 被上告人は,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し,本件訴訟提起 後である平成15年3月11日に,商標法10条1項の規定に基づいて,本件出願 の指定役務の一部である丁役務群を指定役務とする新たな商標登録出願(分割出 願)を行い,本件出願の指定役務を乙役務群と丙役務群に減縮することを内容とす る手続補正書を提出した。

さらに,被上告人は,同年6月2日,商標法10条1項の規定に基づいて,本件 出願の指定役務の一部である乙役務群(「建築一式工事」を除く。)及び丙役務群 を指定役務とする新たな商標登録出願(分割出願)を行い,本件出願の指定役務を 「建築一式工事」に減縮することを内容とする手続補正書を提出した。 被上告人は,本件出願は,本件訴訟提起後,上記分割出願に伴う補正によって, 指定役務が減縮されたから,本件審決は,指定役務を誤った結果類似性の判断を誤 ったものであると主張している。

2 原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容した。 (1) 商標法10条1項の定める要件を充足している限り,分割出願がされるこ とによって,原出願の指定商品及び指定役務(以下「指定商品等」という。)は, 原出願と分割出願のそれぞれの指定商品等に当然に分割される。それゆえ,原出願 の指定商品等について,分割出願の指定商品等として移行する商品等が削除される ことは,分割出願自体に含まれ,別個の手続行為を要しない。

出願に係る商標の指定商品等が分割出願によって減少したことは,審決取消訴訟 の審理及び裁判の対象がその限りで当然に減少したことに帰するから,審決取消訴 訟では,残存する指定商品等について,審決時を基準にして,審理及び裁判をすべ きことになる。

(2) 本件出願の指定役務は,本件訴訟提起後に2回にわたって行われた分割出 願の結果,「建築一式工事」となっており,そうであるとすると,本願商標と先願 に係る他人の登録商標とは,指定役務が同一又は類似であるとはいえないから,本 願商標について商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の判断は,結果と して誤りであり,本件審決のうち「建築一式工事」を指定役務とする部分は,違法 として取り消されるべきである。本件審決のその余の部分は,上記2回の分割出願 によって,その効力を失っている。

3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次 のとおりである。

商標法10条1項は,「商標登録出願人は,商標登録出願が審査,審判若しくは 再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対す る訴えが裁判所に係属している場合に限り,2以上の商品又は役務を指定商品又は 指定役務とする商標登録出願の一部を1又は2以上の新たな商標登録出願とするこ とができる。」と規定し,同条2項は,「前項の場合は,新たな商標登録出願は, もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。」と規定している。また,商標法施 行規則22条4項は,特許法施行規則30条の規定を商標登録出願に準用し,商標 法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合において,もと の商標登録出願の願書を補正する必要があるときは,その補正は,新たな商標登録 出願と同時にしなければならない旨を規定している。

以上のとおり,商標法10条は,「商標登録出願の分割」について,新たな商標 登録出願をすることができることやその商標登録出願がもとの商標登録出願の時に したものとみなされることを規定しているが,新たな商標登録出願がされた後にお けるもとの商標登録出願については何ら規定していないこと,商標法施行規則22 条4項は,商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合 においては,新たな商標登録出願と同時に,もとの商標登録出願の願書を補正しな ければならない旨を規定していることからすると,もとの商標登録出願について は,その願書を補正することによって,新たな商標登録出願がされた指定商品等が 削除される効果が生ずると解するのが相当である。

商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決(以下「拒絶審決」という。)に 対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新 たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について補正がされたときには,そ の補正は,商標法68条の40第1項が規定する補正ではないから,同項によって その効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,商標法には,その ほかに補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずる旨の規定はない。そし て,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合にも,補正の効果が商標登 録出願の時にさかのぼって生ずるとすると,商標法68条の40第1項が,事件が 審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合以外に は補正を認めず,補正ができる時期を制限している趣旨に反することになる(最高 裁昭和56年(行ツ)第99号同59年10月23日第三小法廷判決・民集38巻 10号1145頁参照)。

拒絶審決を受けた商標登録出願人は,審決において拒絶理由があるとされた指定 商品等以外の指定商品等について,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標 登録出願をすれば,その商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみ なされることになり,出願した指定商品等の一部について拒絶理由があるために全 体が拒絶されるという不利益を免れることができる。したがって,拒絶審決に対す る訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな 商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する 補正がされたときに,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずるこ とを認めなくとも,商標登録出願人の利益が害されることはなく,商標法10条の 規定の趣旨に反することはない。

以上によれば,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法1 0条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願につい て願書から指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登 録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,審決が結果的に指定商品等に関する 判断を誤ったことにはならないものというべきである。これと異なる原審の判断に は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨は理由がある。

4 そうすると,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人の請求は理由がな いから,被上告人の請求を棄却することとする。